嫉妬

 取材で芭蕉の歩いたあとを歩いている。東京の深川を出て、一関まで北上し、その後山形側へ来ている。山寺も登った。取材だけで三年間はかかるだろう。次回は最上川の舟下り。芭蕉が舟下りをしたもんだから、同じように。で、五月の頭は同じ出版社に沖縄に連れて行ってもらった。そうすると、ぼくのことを贔屓されていると言っている人が出てくる。まあ、わからないでもない。ぼくは全然本を出していないし、売れっ子でもないのに、四国一周歩くだけのお金を出してもらい、今回は東京発みちのく経由で岐阜まで。また来年も沖縄に行こうなんて話が出ている。贔屓されているって言われても、まあ否定はしない。

 たぶん、そう言い出したやつがぼくよりも売れていて、寝る暇もなく仕事をしているからなんだろう。生活のあらゆる隙間を仕事で埋めている。ぼくはと言えばのんべんだらりと本当に仕事をしているんだかしていないんだか。それなのにいろいろなところに連れて行ってもらい、その土地のいちばんおいしい食べ物をいただく。もちろん、四国を一周した分の仕事は終わった。だから、またのんべんだらりとやっていくんだろう。

 ばりばり働いてばりばり稼いでいる人は、ちょこちょこ働いて薄給である人間を許せないようだ。自分で勝手に忙しくなっているくせに。野望に燃えて頂点に立ちたいと思っているのはそっちのほうで、ぼくは業界の端っこで自分のペースで自分の書きたいことだけを書ければいい。それが甘いというふうに見えるのだろうけれども。ぼくとしては勝手に自分の首を絞めて窒息しかかっているやつに、あーだこーだ言われたくないね、と。望んで手に入れた苦労じゃないか。勝手に七転八倒していろよってことですよ。で、その人がいい待遇を受けないのは人間性だからね。売れっ子なのに根性が腐っているから、人間関係でいい目を見ない。基本的にばりばり働いてばりばり稼いでいるやつは自己批判ができない。気づきもしねえ。