グレー

 夏になるとよくグレーのポロシャツを着ていた。コムサの安いやつ。肌触りがよくて気に入っていた。よく伸縮する生地だったしね。寝入る前に唐突に思い出した。もう捨ててしまっているか、実家の箪笥の中にあるか。

 日々がめまぐるしくなってくると、過去を思い出すことがなくなる。移動距離の長い日々、たとえば茨城の大学院に実家から通っていた頃は、過去をよく振り返っていたものだ。なにせ二時間くらいの移動時間があったからね。でも、いまはそういったものがない。風呂もシャワーですませてしまっている。湯船に入っているともの思いに沈んで、振り返ったりするものだけれどね。毎日家にいて、机に向かっているときは何かしらの考え事。画像もUSBに移して普段は机の中だ。

 小さい頃にアキヤマさんちの自動車修理工場へ行っていたことも昨夜ふと思い出した。アキヤマさんはうちの父の高校時代の同級生。消防士だった。その人の弟さんが修理工場をやっていた。ちなみにアキヤマさんの奥さんがぼくの日記に時おり出てくる霊能者。その霊能者のオバサンはいまやうちの母と仲良しで、アキヤマさんとうちの父は滅多に会わない。うちの父は友達がいないタイプだ。自分から誰かに声をかけない。休みの日となると朝から酒を飲んでテレビに出てくる仲居君やお笑いタレントに「バカじゃねえか」と罵っている。

 話が脱線した。アキヤマさんちの修理工場は狭い事務所があった。ありがちな古い革製ソファーに擦り切れたクッション。カレンダーはセクシーなお姉さん。油のにおいがずっとしていて、何度も繰り返される野卑な話題が苦手だった。