『わたしを離さないで』

 ということで『わたしを離さないで』を観てきた。カズオ・イシグロの原作は長いのだけれど、映画は105分とかなり短い。なんでまたあんなに縮めたのだろう。長い長い子供時代があってこそ、ラストに重みがあるというもの。また、あらすじだけ抜いてしまえば、実はたいした話ではない。あれは幼いころからの心の機微を描くからいいのに。情報が遮断された生活のなかで与えられた「生」を、悩み、学びながら受け入れていくからいいのに。

 現実離れした話だけれど、実はぼくらの人生となんら変わらない。やっと知り得たと思った真実さえ、前もって用意されていたものだということはよくある。わかったつもりで生きていて、実はなんにもわかっていない。もしかしたら、見えていないということさえ気づいてない。端的に言ってしまえば今回の原発の話も、そう。知り得なかった、わかってたいつもりだった、という長い長い日々。それを描くことでラストが全然違うし、それをやったからこそ原作のよさがあると思う。これはきっと小説しか為しえないのかもしれない。変わらない日常を、映画で描くことはきっと難しい。映画に必要なのはあらすじ。伏線とオチ。でも、深みがないじゃないか、それだけじゃ。