『風花』

 なんとなく川上弘美さんの『風花』。文章の良さに浸るのは好きだし、独特の空気感を味わうのも好きだけれど、長編となるとしんどいというか。そういえば、以前に盛岡のさわや書店にいらしたイトーさんが、ツボタ賞をとった作品を、好きな思春期小説三本のなかのひとつと上げてくれていた。淡白なのかなんなのか、過去に書いたものに対してあまり執着はない。それゆえにいっしょに仕事をした担当さんに不快な思いをさせたこともあると思う。でも、うれしいんだけれどな、褒められれば。ただ、もうぼくはそこにいないというか。いまのことで手一杯というか。

 人によっては自信作とか、思い入れたっぷりの作品というものがあると思うのだけれど、そのへんもぼくはない。甲乙もなく、好悪もない。みんな均等に頑張った。
 
 ときどき、小説家という仕事や世界に染まりきっていないのだろうか、と考えたりする。たとえば、自分の担当さんを呼び捨てにして、まるで子分のように扱ったり、時には笑いものにしたりする。できません。できるというのは作家と編集さんの距離が近いからなのかもしれない。ぼくは遠いのだろう。その遠さや、浸りきっていなさは、覚悟がないからだろうか。距離を置こうとしているのだろうか。でも、やっぱり担当さんに恋愛相談やら人生相談を本気でするようにはなれないかな。もともと人への依存度が低いのだ。依存できず、てんてこ舞いになって、踏み外すこともある。