広島旅行記 4

 いっちょ赤裸々に書いてみようと思う。嘘だけど。

 簡単に言えば、絶交してみた。向こうから言い出したので素直に従った。まず、言い分がわからない。その子はぼくを必要としてしまうんだと、求めてしまうんだと。なのにぼくが求めてくれないのがつらい、関係として不安定だ、と。いままでアドバイスしてきて頼りにしてくれていたのはわかっていたけれど。
「切ってください、わたしのこと」
 そう言われて「はい、そうですか」とは言えないでしょう。
「対外的に誰にも言いませんし、わたしは寂しくもないしつらくもないですから、切ってくださいよ」

 と言っても別にいままでなにもなかったんだよねえ。指一本触れていないよ。ただ、向こうがこっちを一方的に頼っていただけで。結局恋愛と同じじゃないかなあ、と。自分ばかり求めちゃって、あなたは求めてくれないのがつらいって不平はさ。でも、求めてくれないって言われてもさ、なんにもないんだから困るじゃない。もともとそういう関係じゃないでしょうに。求めてくれないあなたが悪い、といきなり言われてもさ。

 彼女が言うには、いままで駄々をこねて言うことを聞いてくれなかった男はいないんだとさ。
「どうしてデシデシさんは靡いてくれないですか」
 うん、靡かないよねえ。おれ、実は全然靡かないんだよ、気が乗らないと。それは大学時代までさかのぼってホリサワが泊まりに来ていた頃から変わらない。そう、ずっと靡かない。いっしょに寝よう、と誘われてもスルーだったよ。

 結局、関係を切ってくれって(別になんの関係もないのに!)要望を聞き入れたのは次の日の夜。メールで。引き金は向こうの言葉。
「〇〇とかみんなわたしの味方ですからね」
 つまり、関係をわたしと切るとあなたは孤立するよ、ってことらしい。ほかの同業の子も、大御所も、みんな彼女の味方なんだそうだ。どうぞ、どうぞ。ぼくはひとりでいいです。味方が欲しくてこの仕事やっているわけじゃないもんね。なんでこんな脅しにあわなくちゃならないのか。人が自分の思うようになるなんて傲慢な考えをどうして省みないのか。

 みんないやになった。ぼくはあんたみたいに味方が欲しかったりパーティーに行きたくて小説書いてるんじゃないよ。じゃあ、なんで書いているのか、海を見ながらよく考えたよ。だからほかはみんな手をはなしてみた。テーマ曲は、くるりのハイウェイ。

 朝起きて、ホテルの自転車を借りて八幡浜の港を回った。冷めた気持ちで、いままでの居場所から離れようと思った。すごくいい小説を書いて前に進もうと思った。ハイウェイが頭の中でぐるぐる。