大橋

 大橋仁という写真家のデビュー作は本当に凄かった。19歳。デビュー作の『目のまえのつづき』は父親の自殺未遂事件を撮ったもの。真っ赤な血。傷跡。生死の境をさまよう父。退院までのあいだの恋人との営みも取る。生と死のあいだのものすべて。本屋で立ち読みしたとき、動けなかった覚えがある。見なきゃよかったと思った。アラーキーの「凄絶ナリ!」の言葉と絶賛はうなづける。
http://www.seigensha.com/books/4-916094-27-1

 1972年生まれの彼。いまやいろんなCDジャケットやCMの写真を撮る人間になった。ただ思うのは一度そこまで深く掘ってしまった人間が、多くの人が目にするエンターテイメントの世界でどうやって生きていってるんだろう、という引っかかり。映画も撮るし、MVも撮る。その一本。やっぱり、難しいんじゃないかと思うのだ。自分にとってこれが本当というものに出会った人が、お金の発生する世界で生きていくのって。仕事なんだなって見えちゃうじゃん。お仕事として成り立たせようとする(健全な大人だから当たり前なんだけど)ときの縫い目が見えてしまう。気にならないって人は別にいいんだけど。